小川村の昔話(天狗の太鼓)
天狗の太鼓
長野大町線の坂の瀬バス停から北へ歩くと二又地籍になる。
そこから右手に別れてまた三十分あまり、湯の沢というところに着く。
湯の沢は江戸時代享保六年(1721)に開拓されたという。
ここに天狗社があって、毎年春秋に小林小裕治さん宅で祭事が行われている。
「ボーンボン」という音が穴の奥から聞こえてきてなえ、腹の底にしみこむように・・・
天狗の太鼓の音がというがさえ。
今でもその岩穴は見られるぞえ。
湯の沢のおらあ家の北側を登って二町ほどのところに、そうだなえ、四月と九月の二回、必ず「ボーンボン」という音が奥から聞こえてくるだに。
その音は三十二か四十二ときまっているぞえ。
それはおれのじいさまから聞きづたえてきたものだが。
今もときにやあ「ボーンボン」と音が聞こえてくるぞえ。
この太鼓の音は、天災の前ぶれがあってなえ。
それは本当だぞえ。
あのさえ、明治三十七年の六月十五日の大洪水のときにゃあ、四月っから六月十五日まで朝晩聞えやした。
近ごろでは、伊勢湾台風のときも毎日聞えやした。
うちのおぢさまも昔の弘化四年の善光寺地震のときのことを、よく話してくれやしたわえ。
天狗太鼓はこれからもきっと、あの穴の奥から「ボーンボン」となりつづけるだらず。
この耳に今でも残っているわえ。あの「ボーンボン」という音が。
(話者 小林小裕治八十五才 もりきっ子より)
出典:小川村誌[昭和50年(1975)10月15日発行]